甘い想いより伝えたいのは、




 二月十四目――この日の第四魔道師団は戦場だ。
 師団長であるジン=キサラギ少佐の誕生目であり、純粋に愛や感謝を伝え合う目だからである。秘書官として本目の職務に着任していた少女・ノエル=ヴァーミリオン少尉は、届いた荷物をひとつひとつ丁寧に検品していた。
 ムツキ大佐からは、ヴィンテージバイクの特集が組まれた絶版の雑誌が数冊。これは渡せるもの。宛名が書いてないプレゼントは、開封することなく処分して構わないとのことだった。
 分別作業を終えたノエルは、ふう……と小さく息を吐く!ジンの好みが分からなさすぎて、感謝を伝える品を用意できていないのだ。とはいえクッキーなら間に合うだろうか?
 食堂の一角を借りると、バターや小麦粉を用意しつつ準備に取りかかるのだった。

「キサラギ少佐、紅茶のお時間にしませんか」
「…………そうだな。用意を頼もうか、少尉」
「かしこまりました」

 バタークッキーにはミルクティーが合うだろう。濃いめに抽出した紅茶にシュガーとミルクのポット。それから、先ほどのクッキーも一緒に。メッセージカードには「いつもありがとうございます」と短く添えて。
 初めでこそ「食欲の失せる色だな」と悪態をついてきた青年だったが、一口食べたのち「多少はマシになったな」と小さく零したのだった。