手のひらのうえでころ、ころり




 これは、十ヶ谷兄弟たちが勤める底辺校のある、そのまた隣りの学区での話しだ。
 有名私立高校の男子生徒が女装させられた挙げ句、不本意な性交渉に及ばされていたのが発見された。被害者の彼はありとあらゆる汁まみれで「自由に使ってね」と書かれたプレートが首から掛けられていたのだという。
 数時間に及んでトイレに置き去りにされ、見知らぬ男たちの玩具にされては蹂躙され続ける。そんな人道的にも凄惨極まりない事件が、今から約三ヶ月ほど前に起きたのだ。
 こちらはあくまでも噂だが、例の事件の実行犯はなんと同年の女子生徒で、いわく「私のことが好きだから私の理想を叶えてもらった」との弁だ。動機や理由がなんであれ到底許された行為ではない。だが、その手合いの趣味を持った人間からすれば、なんとも将来有望な、非常に稀有な存在になる。
 かねてから問題行動ばかりを起こしていた少女への学校側の処遇は厳しく、事実上の退学処分。卒業をじきに控えての退学に、どうしても卒業資格が欲しい彼女は必死になって編入先を探した。そんな問題児を受け入れてくれたのは、都市部の郊外にある高校のなかでも偏差値が底辺の高校であった。

「なあ、今日のライヴさ」
「手伝いくらいはしてやらんこともないぞ」
「さすが俺の弟! 話しが早くて助かるわ」

 有名なメジャーバンドのコピーバンドではあるが、この学校の軽音部には定評があった。
 卒業生が経営する小規模のライヴハウスの協力を得て、このたび早めの卒業ライヴを行うことになっているのだ。そのバンドでヴァイオリンを担当しているのが養護教諭の十ヶ谷ナハトになる。
 借りているマンションの防音部屋を占拠し、この半年のあいだ長らく触っていなかった弦に触れた。弟のセスに日程管理をすべて任せ、柄にもなく練習に明け暮れたのだ。つかの間、若かりし頃に戻ったみたいな気がしたのは気のせいだろうか。
 そして迎えた当日の夕方。三十人ほどの観客を収容できる小さな会場。地上にある店舗の入り口でチケットを見せ、残りの半券でドリンクを頼み、立ち見席で自由に楽しむ。集まった学生たちのなかに、見慣れない顔があったのは言うまでもない。
 ナハトはメロディラインに合わせて弦を震わせながら音を奏で、見慣れない彼女に視線を投げる。何度もぶつかる視線に男の意図を感じたのか、少女は不敵に微笑みながらリズムに合わせて合図を送るよう手を振った。
 盛況だったライヴは予定外のアンコールまで続き、時間はすでに夜の二十一時をまわっていた。ライヴの熱気にうかされて何かあっても良いようにと、メンバー全員でコンドームを配布してまわるのも毎度のことだ。無料配布を済ませたナハトとセスは生徒たちを先に帰し、兄弟ふたりで楽屋の後片付けをしている。

「なあなあ。あの子、来ると思う?」
「さあ……。正直、僕には図りかねるが――」

 兄の期待に満ちた声で問いかけられ、曖昧に言葉を詰まらせる弟。普通の感覚でいけばどんなに盛り上がったライヴとはいえ、見知らぬ男に近寄っては来ないはずだ。こんな下心の見え透いた人間の……と思いながらも、心のどこかで期待している自分がいる。
 最後に読んでいた雑誌を片づけると、控えめに部屋のドアがノックされた。セスがそれを開けに行くと、訪ねてきたのは一人の少女。彼女は学校指定の制服を着て、榛色のロングヘアーを無造作に靡かせている。ぱっちりとした赤い瞳が、興味深そうに覗き込んできた。

「ねー、お兄さん。ヴァイオリンのお兄さん居る?」
「あ、ああ。そこに」

 指さされたナハトは少女と目が合うと、年甲斐もなく表情を破顔させた。短めのスカートから覗く美しい脚線に、制服の上からでも分かる慎ましい胸元。さらりと伸びた長い髪に、猫みたいな目元、少し背伸びしたような艶のある声。可愛らしい造形でいて変態的な嗜好の持ち主というのであれば、正直に言って二重の意味合いで好みだ。

「来てくれたんだ? サンキュ」
「だって、あれだけ分かりやすく誘われたら……ね? んふふ」
「ナハトでいいよ。えーっと」
「シエルでいいよ。ナハトお兄さん」

 屈託なく笑った彼女は男の腕を取り、すりと意味深に身を寄せた。それを優しく抱き留めるとナハトは柔らかそうな尻の丸みを撫で、そのままツゥッと滑らかな太腿をたどりあげてはスカートの中へと指先を潜り込ませる。指先に引っかかった紐状の生地に、男は脂下がった表情で「紐パンツなんてえっちだなあ」と耳元に吹き込む。くすぐったそう身を竦めたシエルは「お兄さんも似合いそうよ? 紐タイプ」と小さく笑ってナハトの尻肉を丁寧に揉んだ。
 さも初対面かのように話したが、彼と会うのは、なにもこれが初めてという訳ではない。何度もホテルまで連れていってもらい、泊めてもらうだけの不思議な関係だった。必要があったから、そのように合わせて振る舞っただけである。

「じゃあセス、あとは」
「ああ。任せておけ、大丈夫だ」

 ひら、と無骨な手が振られて安心させるように返事をする。それを確認するとナハトは彼女を連れて楽屋を後にしたのだった。関係者以外立ち入り禁止の看板を抜けて、いざ夜の街へ。
 空は闇色が滲みだし、暗くともしっかりと晴天だった。ビル群のど真ん中とあっては星の瞬きも見えず、その代わりにネオンがきらきらと煌めいている。人混みのなか、二人は寄り添い合うように歩く。

「シエルちゃんには似合いそうだよな。こういうの」
「お兄さんには、こっちが似合いそうかも」
「――お! 今年の新作じゃん、良いカンジそうだな」
「そのブランド有名よね。こっちのお財布とか丁度良さそう」

 そんな具合いにショーウィンドウを楽しみながら、賑わっていた繁華街を抜けてホテル街へ。あそこがいい、と指さされた建物を目指すと難なくチェックインを済ませる。訳ありさん御用達ということもあり、シエルが未成年と知っても止められることは無かった。
 エレベーターの照明は薄暗く、こういった細やかなところから雰囲気づくりされている。部屋は四階――ナハトがそう思っていると、くいくいと控えめに袖が引かれた。どうやら部屋に着くまで我慢できないらしい。
 ぽんぽん、と宥めるように頭を撫でてさりげなく耳をなぞる。すると、びくりと大袈裟なまでに身体が揺れた。じっとりとした視線を向けられるが、男の意にはまったく介さない。

「ねえお兄さん。我慢できない」
「しょうがねーな。今回だけだぜ」

 部屋にたどり着くなり、姿見を背後にするりと脱ぎ落とされるランジェリー。片側の紐を解いて、器用に脱ぎ捨てたのだ。躊躇いなく持ち上げられたスカートに、隠すことなく露わになる無毛の恥丘。形の良いヒップが鏡越しに見えて、思わず見事なものだと感嘆の息を洩らす。
 ナハトは少女を抱き寄せると閉じられた太腿を撫でまわし、僅かに誘うように開かれたところでその恥丘を容赦なく割り開く。ぷっくりと熟れはじめた淫芽を包む薄皮を剥き、それを戻したりと執拗に繰り返す。焦れきってきたのか、とろりと濃い愛蜜が滴り落ちると、それを舐めるように縦溝を舌先でなぞる。剥き身にした淫芽に吸いつきながら、繊細な手つきで縦溝を割り肉襞の花が咲く様子を眺めた。

「なあ、ちょっとだけ」
「は……んんぅ。……今日はしてくれるの? 珍しいのね」

 訊ねようとした言葉を遮るように、嬉しそうな声が返ってくる。ナハトの手を掴んだシエルは、じゅぷじゅぷとフェラチオの要領で指を舐めはじめた。そうしてたっぷり少女の唾液で濡れていくと、ざわざわと肌が粟立つのを感じる。
 そうして濡れた指先を充分に潤った肉襞に宛てがうと、ゆっくりと呑み込ませていく。ちゅくりと淫芽を強弱をつけて吸いながら、胎内の一点を刺激し続ける。同時に責められて感度が跳ねあがったのか、大きく肩を震わせながら背をそらせて「はぁあんっ」とシエルは声を張って絶頂していった。
 脱力した身体を支えながら締まる胎内をぐちゅぐちゅと強く指先で突くと、ぴんっと太腿が痙攣する。それが強くなった瞬間、彼女はぴゅくっぴゅくっと透明な粘液を断続的に噴出させた。緩急をつけて掻きまわし続けていると、その一点に当たるたびに体液が失禁でもしているかのように洩れる。

「は、ん……も、出ないわよ……ばか」
「悪い悪い。つい、良さそうにしてるモンだからさ」

 愛蜜まみれの指を舐めた彼は、そう言って優しくシエルの頭を撫でた。
 今日はこれだけ。いいや、これだけやらせることに成功したのだ。それはお互いにとって大きな進展である。

「ああ、そうそう。今度早く仕事あがるからさ、次こそウチに来いよ」
「本当? んふふ、やったあ」

 渡されたのは住所の書かれた紙と、合鍵だった。勝手に上がっていて良いなどと、ずいぶんと信頼されたものだ。それだけのものを勝ち得たとは思わなかっただけに、シエルは素直に喜んだ。今まで焦らされ我慢してきたのだ、次こそは心ゆくまで発散させてもらおうと思う。
 去りぎわ、男の携帯が鳴った。通知画面から本文を開く。そこに書かれていた一文を読むと、律儀な子だなあと内心で微笑んだのだった。


***



 テスト期間前の教員たちは忙しい。生徒たちに普段通り授業をおこないながら、設問の山を読まれないようにあれこれと試行錯誤するからだ。その疲れがどっと押し寄せるのが、マンションに帰宅して玄関についた時になる。学園一の堅物との烙印を押されている男・十ヶ谷セスは、革靴を脱ぎながらはあと深い息を吐いて部屋に上がった。
 廊下を抜けてリビングに向かおうとすれば、なにやら脱衣所から物音が。悠々と定時に上がった兄がシャワーでも使っているのだろうか。そんなことを思いながら腰を落ち着けようと、ジャケットを脱ぎつつ再度リビングへと歩みを進める。ドアの取手を引いて静かに開け放つ。すると、そこには来客用の布団を敷くナハトの姿があったではないか。
 なら、今シャワーを使っているのは? 青年の疑問に答えを出すよう、バタバタと慌ただしく足音が近づいてくる。眉をひそめた弟がそちらに視線を向ければ、バスタオル一枚を巻いただけと非常に無防備極まりない姿で髪をまとめた少女の姿がそこにあった。あの夜、楽屋を訪ねてきた彼女だ。
 兄よ、ついに気でも狂ったか。以前から何かと奔放で、セスは常々その尻を拭ってまわっていたが、今回ばかりは庇いかねる。と、いうよりも庇いきれないのが現状だ。

「ねーね、ナハトお兄さんゴムちょうだい! さっき買い忘れてきちゃった」
「おー、了解。髪やってやるからコッチおいで」

 手招きした兄は、胡坐をかいた上に彼女を座らせる。見事な長い髪に櫛を入れてやり、ヘアゴムで結んでうなじを見せるように胸元へと垂らしてやった。
 自分では見えないところが視界に入っているのが恥ずかしいのか、少女は頬を染めて視線を彷徨わせる。その先にセスを見つけると「お兄さんの弟さん?」と首を傾げる。男の眉間に刻まれているシワは痛ましいくらいに増える一方だ。そんな姿を見るや「本当に真逆ね」と悪気なく笑った。

「お兄さんたち、お夕飯はどうしたいの。ガッツリお肉とか、何か希望はないの」
「シエルちゃんでフルコースしてぇなあ、俺」
「んふふ。美味しく食べてみる? なんてね」

 クスリと笑って冗談に冗談を返した彼女は、あの時も言っていたがシエルと言うのか。手早く下着を身につけて戻ってくると、寝間着と思しきネコ耳がついたパーカーを素肌に羽織った。すれ違いざま「一晩お世話になるなら、これくらいしなきゃよね」と袖口をまくりあげ、冷蔵庫を開けてあれこれと思案している。ポカンと一人取り残されたセスは、なんとか兄の視界を遮るようにテレビの前に立ち、順序立てて問い詰めはじめた。
 彼女は隣りの学区の高校に通う生徒で、卒業が近くなって退学らしい。前々から近辺の歓楽街で男をあさっていたのだと言う。よりにもよって学校指定の制服でだ。案の定、補導されそうになったところをナハトが助けたのだという。
 しかし、それと寝床を提供することとの因果関係が見えてこない。さらに眉間にシワを寄せようとすると、コツンと軽く兄の指先がそこをつついた。神妙な顔つきになったナハトは「家に居場所が無いモンだろ、あの年頃なんてさ」と意味深にこぼした。下手に男についていき犯罪に巻き込まれるよりは、と言ったところなのだろうが。

「やっぱり女の子のエプロンはソソるよなあ。今日は三人で一緒に寝るぞ」
「は? なんで僕まで」
「ごちゃごちゃ煩いセス君は、夕飯抜きでいいそうでーす」

 そう茶化したナハトは、逃げるようにキッチンへと向かって行った。料理するシエルにくっつき、まるで目に入れても痛くないと言った様子である。まるで以前から面識があったかのようにも感じられるが、おそらくそれは気のせいだろう。
 これは何かがあったら事だと、しっかり認識していると考えてもいいのだろうか。だから、二人きりになることを意図的に避けている? あの好き放題してきた兄が、そんな今更……。何か、ある。長年の、それこそ弟としての勘がそう告げている。三人で寝ることを提案したのは彼女かもしれないが、これは何かが起こる気がしてならない。
 カチカチカチ。
 何気なく時計を見れば二十三時と少しが経ったくらい。布団にもぐって寝返りをうとうとして、そこに少女の安らかな寝顔があるのだと思うと、セスはそれを止めた。布団を深くかぶりなおした途端、隣りから聴こえてきたのはちゅっちゅと控えめに、それでいて執拗に繰り返されるリップ音。
 はあ、と吐息が洩れてまた吸いつく音を繰り返す。さわさわと大きな手が体躯をたどり、その腰を撫でて尻の丸みを揉んだ。んっと少女の息がくぐもって、苦しさから舌を出した途端にそこを吸われている。

「も、激しすぎるってば」
「ごめん、あんまりにも可愛いからさ。ほら、ご褒美くれよ」
「んふふ。だからって本当に弟の隣りで犯されたいなんて、とんだ変態ね」
「アイツはむっつりスケベだから、一人で抜かせておけばいーの。ほら、早くぅ」

 何を勝手なことを言っているんだ。そう思った堅物だったが、次いで耳をよぎった単語に返す言葉も無くなった。
 ナハトは学生の頃から男女の見境なく派手に付き合って、いや、見境なく遊んでいた。そこでその手合いの趣味に目覚めたらしく、痴漢の被害に遭っても逆に喰って楽しむ始末だったのを思い出す。
 そうしている間にも布団の隙間が大きく広がる。シエルの上に跨った男は、あらかじめ仕込んでおいたのだろう綻んだ秘孔を拡げて、ぬぷりと張り型を咥えていった。ぬちゃぬちゃと女の胎内をまさぐるような音がする。否応なしに掻き立てられる想像。

「一度でイイから可愛い女の子にヤられてみたかったんだよなぁ……ぁんっ! は、やべぇくれーに気持ちいい」
「本当にやらしいんだから。私はセスお兄さんの方が好みかも。骨太だし、我慢強いだろうし……ナハトお兄さんくらい素直な人も好きだけどねっ」

 勢いよく突き込んだのだろう、ぱんっと肉同士がぶつかり合う音がする。尻目に様子を窺えば、男にしては細っそりしたナハトの腰が、小さな手で掴まれ固定されている。組み敷いたはずの身体の下から激しく腰を使われれ、深く一点を突かれていた。

「ぁああ、そこぉ! シエルちゃ、ゴリゴリ当たるの気持ちいいからもっとして」
「んふ、亀頭のゴリゴリが良いんだ? お兄さんったら、えっち!」
「ふ、やぁあ……ゆっくりしないでぇ! 意地悪するなよぉ」
「ほらほら、自分から這ってお尻を突き出すなんて淫乱さんね。女の子みたいにお尻ぐちゅぐちゅにされて嬉しいんでしょ? もっと激しくしてあげる」

 分かりやすい言葉で嬲られて、そのままあっさりと体勢が逆転した。衣擦れの音がして、先ほどとは比べものにならないほどの激しい水音が続く。背後位で腰を使われているのだと思うと、セスの肉茎は痛いくらいに勃起して硬く張りつめた。
 ここで手を伸ばしたら、兄の言葉通りになってしまう。
 そう自身を律していると、嫌でも尻肉が寄りキュッと秘孔が締まる。そこを丹念にほぐされて、あのぶくりと大きな瘤のような亀頭が、太く逞しい棹が押し入ってくる――。
 その趣味が無いということにしておきたいセスには未知の感覚だが、あのナハトが蕩けて悦がる声をあげるほどなのだから、気持ちがよくて癖になってしまうのだろう。弟がだらだらと濃い先走りを垂らして耐えていると、兄は女のように声をあげて上り詰め、これでもかと苛むように秘孔を突きまわされて精を洩らしてく。

「シエルちゃ……早くウチの学校来いよぉ。卒業まで俺とイチャイチャしよ」
「もう一回、びゅっびゅってできたらね」

 優しく続きを求めるシエルの声音に、ぞくんと背筋が震えた。あんなに激しい行為を平然とこなし、さらに二度目を求める。なんという甘美な仕打ちなのだろう。
 それを想像しただけで、セス自身まで快感を受けている心持ちになる。彼女の腰が責めるように前後に振られるタイミングを見計らって、自身の先走りで汚れた指先で亀頭を擦った。

「ぁああ……ッ! ダメ、出ちゃう! びゅっびゅする、びゅっびゅするからぁ……ひぁああああん!」

 悲鳴のような喘ぎに、セスは息を荒くしながらびゅるっと派手に射精した。寝間着をべたべたに汚しながら、それでも秘孔が期待に疼いてしまうのを止められない。まだその快楽を知らないというのに、その期待や渇きを律せない。それに溺れていくのが、たまらなく怖いと感じた。
 シエルは満足そうに小さく息を吐くと、ゆっくりその張り型を引き抜く。亀頭の僅かなとっかかりが抜ける感覚さえも快感なのだろう、色白な兄の尻肉がピクリと痙攣した。おもむろに置かれた荷物が、がさりとあさられる。何が出てくるのだろうと、期待してしまう青年。
 彼女の手の中に収まる程度の筒状の玩具。とろとろと注がれていくローション。ある程度まで中を満たすと、それは快楽に溺れきったナハトではなく、何故か盗み聞きしていただけの自分に装着させられたではないか。耳元に唇が寄る。

「いけない子には何が必要かしら。んふふ」
「ん、ぁ……! ぁう……待って、出したばかりだから、出したばかりで……ひっ」
「……ホントにしてたの? お兄さんったら可愛い。シエルがたぁくさん可愛がってあげたいな」

 セスの耳朶にねっとりと舌が這う。ふぅっと吐息がかかり、首筋に顔が埋まる。快感を教え込むように忙しなく玩具が上下に動かされ、再び兆しだす肉茎。彼女の息遣いひとつに期待し、つい余計なことまで喋ってしまった。

「せっかくだから楽しんだら良いじゃない。はぁ……センセイのすごいビクビクしてるよ? もっと雑にされたいの? 兄弟そろって変態さんね」

「やっ……ダメだ。こんな……こんな、こと……っ」

 なけなしの理性を奮い立たせてみても、少女の言葉に転がされて快感が増すだけだった。そそり勃った肉茎は女の味に飢えているのが明白で、内部の凸凹部分がそれを思い起こさせる。じゅぽっと激しく引き抜かれ、擦れる亀頭がまるでシエルの指先に直接犯されているかのように錯覚してしまう。
 相手は未成年だ。それに手を出されても、手をつけるような真似だけはできない。そんな真っ当な志も、じわじわと快楽に蝕まれて溶けていく。気づけば庇護すべき対象である彼女に苛まれることに、特別性を見出しはじめていた堅物の男。

「ん、すっごくたくさん出たわね。先生、偉いね。いい子、いい子。今度はもっと気持ちいいことしましょ? シエルちゃんとの約束ね」

 約束。一方的に取りつけられたそれは、果たして守る気はあるのだろうか。それは定かではないが、その夜から二週間後に時期はずれの転校生がやってきた。
 北園シエル。それが、あの夜に男二人を難なく手玉に取った少女の名前だった。そして卒業までの少ない時間を、ひとつ屋根の下で過ごすことになるのだった。


***



 新たにシエルが通うことになった学園は、大都市の外れにある偏差値が底辺の高校だ。様々な噂が一人歩きし、どこの高校も彼女の受け入れを渋った。事実上の島流しのような扱いである。
 彼女の姓が本名であるのなら、シエルはあの北園グループの令嬢になる。家督継承権は第三位と高い位置だ。権力争いに嫌気がさした少女は、口座の現金だけを頼りに家を飛び出したのだという。いわく「コンドームひとつろくに使えない男なんて挨拶のできない、そもそも人間以下ね」とのこと。その一言、扱いの厳格ぶりからもどんな修羅場をくぐってきたのかはそれとなく察せた。
 男所帯の3LDKに荷物を運び込む。とは言っても、ふらふらとした生活を送っていたシエルに、家財道具などなく、唯一の私物といえば制服と学校指定の鞄にサブバッグだった。その中には最低限にまとめた化粧品と下着、玩具や寝間着などを詰め込んでいた。さながら四次元のような中身の多さである。

「私、この前みたいに川の字したい!」
「はいはい。仲良く真ん中に入ろうな、シエルちゃんは」

 量販店で売っている安いタンスをリビングの一角に置いて、その中に下着を畳んでしまう。黒や淡い紫のレースで飾られたショーツやブラジャー、それからガーターベルト。荷物持ちを立候補したナハトは、行きつけのランジェリーショップで自分好みのものをちゃっかり買い与えていたらしい。荷解きを済ませると、わいわいはしゃぎながら三人で簡単な昼食を済ませる。
 それから再び街に繰り出して、今度は服を買いあさる。ブラウスにタイトなスカートといったフォーマル着から、パーカーなどのラフなものまで一通り揃える。これくらいあれば充分か、と目についた珈琲の専門店で一息つく。
 雑踏を眺めているように見えるシエルの目線だが、その実は男を値踏みしているのが見て取れた。口直しと言いたげに対面のナハトを視界に入れた。すると、見るからに柔らかそうな唇がちゅうとストローを吸っている。細く、それでいて肉づきのいい太腿。それが隠すのは恥丘の稜線で、意味ありげに組み替えられる脚線。

「ちょっと映画でも観ていくか? 余裕あるし」
「いいの? セス先生、怒らない?」
「アイツはきちんと待てができるヤツだからいーの。それに、悶々としてるくれーがイイんじゃねえの。……なんてな」

 個人差はあれど十八やそこらなんてやりたい盛りだ。そんな真っ只中の少女を見過ごせなかったのも事実であり、それが自身の性癖に直結して満たす存在たりえたことは、男たち――特にナハトにとっては大きな誤算であった。
 そんな彼がシエルを連れて行ったのは、古い映画館だった。外装こそ新しいが、設備はひと昔くらい前のものである。チケットを買い、館内に入る。今から上映するところだったのか、数名の男性連れが居る。その趣味がある人間の持つ独特の気配を敏感に感じ取ったのか、彼女は小声で「ナハト先生は露出がしたいの? 恥ずかしいのが大好きなのね」と言葉でぷすりと刺してくる。
 ここは表向きでこそ映画館だが、実態はその手合いの趣味持ちが集まる発展の場として界隈では有名な場所である。先程までストローを吸っていた柔らかい唇が触れてくる。男の下唇を柔らかく食んで、薄く唇を開ければ濡れた舌先がそれをこじ開けてきた。ちゅくちゅくと絡め合わせながら、二人して映画を立ち見する。そこかしこから聞こえる太い喘ぎ。その様子にバッグを開けたシエルは、恥ずかしげもなく下着の上から張り型の鎮座するショーツを穿く。

「ね、ね。ナハト先生、シエルちゃんのも舐めて」
「んふ。シエルちゃんの舐め放題で嬉しいわ」
「あ、でも。先にこれを咥えて欲しいな、その可愛いお尻で」
「えっちなチョイスだなあ。じゃあ咥えさせてよ? ほら」

 すっと屈み込んだナハトが、それにキスをする。れろっと舌先が這った途端、思い出したように彼女はもう一つの玩具を取り出した。小さな玉状のシリコンが連なったそれは、玉をひとつずつ呑み込んでいきひり出す。その一定の動作を繰り返し、括約筋の伸縮で快感を得たい時に使うタイプのアナルパールだ。
 尻を向けて、年甲斐もなく自分からひくつく秘孔を見せる。そこが濡れた指先で拡げられ、指の腹から爪先がつぷりと入り込む。丹念に慣らしてから先程のパールを宛てがい、つぽつぽと挿入されていった。

「んっ……はぅ、このカンジがやっぱ堪らねぇわ。でも、すっげぇ長くない? これ」
「ふふ、少しだけ長いかもしれないわね。いい具合そうに入ってくわよ。ほら、自分でやりながら舐めて」

 腸内が玩具でほぐれて拡がるまで、栓でもするかのように持ち手を固定する。ぷりんっとシリコン塊を排出し、また戻す。緩慢に肛虐を繰り返しながら、ナハトは口での奉仕を開始した。形状が立派な肉茎なだけあり、興奮から多量の唾液が分泌される。ごくりと飲み下しても足りず、先端を咥え込もうと大きく口を開けばいやらしく粘ついて糸を引いた。

「ん、んぅ……シエルちゃんのおっきい」
「たくさん出して? 俺で気持ちよくなってよぉ」

 男の言葉に、シエルの口角がみるみるうちに上がってく。能動的な少女の男性性を刺激する言葉でねっとりと、その自尊心ごと包み込む。はふ、と息を吐きながら自慰も口淫もそつなくこなす。こんな時になって初めて場数を踏んできて良かったと思うのだ。

「んふ。良いわね、ナハト。すごく可愛い、出ちゃうっ」

 言うだけなら何とやらである。身体の仕組みとして彼女はその機能を持ち合わせていない。けれど、それを満たそうと必死になる。渇望だけが支配する。ぐっと頭が押さえ込まれて、喉奥まで探られる。ずんっと突き込むように腰が動いて、震える。その様子から、ナハトは彼女の脚がひくひくと痙攣していることに気づく。
 周囲の雑音に混じって聞こえたのは、一定の感覚で聞こえる振動音。細いピンク色をした配線がその先に伸びている。その奥、下着の中で震えているのだろう。淫芽を男顔負けに勃起させているのだと思うと、そんな姿さえいじらしく思えてくるのだから末期的だ。

「久しぶりにイけた気がするわね。……もう終わったわよ、映画。さ、帰りましょっか」

 無情にも脱ぎ捨てられた下着たち。満足してくれたのは大いに結構だが、そんな彼女からのお達しは「マンションに着くまで我慢してね」と無慈悲なものだった。口元を拭いながらその挑戦を受けると、ナハトは玩具を咥え込んだままズボンのベルトを締めた。
 ここからマンションまでは電車で一駅だ。乗車してからが長い一駅だが、それくらい耐えられないのは恥ずかしい。荷物で手元を隠しながら、電車の揺れに任せて揉まれる尻肉。シエルの指先がピンポイントで玩具や、それを食い締めて頬張る括約筋の周りを刺激してくる。その微弱すぎる快感を耐えながら、二人は揃って帰宅した。
 ギャルソンエプロンを畳みながらご丁寧にセスが出迎えてくれた。――それまでは良かったのだ。安心して気が抜け、ナハトの理性がぐずぐずに蕩けた瞬間を狙うかのように、少女の膝小僧が男の臀部を強く刺激した。とっさに弟に縋りついた兄は、表情を隠しながら必死に耐えていた嬌声と押し寄せてくる絶頂を吐き出したのだ。

「ダメっ、それ以上されたら出ちまうって! もう、奥まで入らねーよぉ」
「シエルちゃんだけずりーよぉ、俺のこと放置してさぁ! 奥まで早くくれよ、ナカに出してぇ」

 問答無用で自分から下げられるズボン。下着のフロントはびっちょりと湿っていて、何度も我慢しながらそれを超えているのを如実に物語っている。あまりの有り様に嫉妬するよりも先に怒りが勝ったセスは、縋りついてきたのを逆手に取って兄の身体を固定してしまう。その表情は「好きに料理しろ」とでも言いたげだ。

「この馬鹿……そんなんだから俺にカノジョ盗られ、ひんッ! ぁああああ、ダメ……イくっ! もう出ないってば、シエルちゃ……」
「なんだ、もう出ないのか。亜鉛が足りてないんじゃないのか、兄さん」

 言われるまま、セスは若かりし青かった過去を振り返りながら軽く鼻で笑う。まるでこの前の夜の仕返しだと言いたげだ。わきわきと両手を揉み手したシエルは、引っ込められたナハトの尻から一息に玩具を引き抜いた。くぽくぽっと勢いよく続けざまに排出させられ、兄はだらしなく涎を垂らして達し続けるハメになる。
 長年待ち望んでいたはずの賑やかな性活。もとい生活がこれから始まるのだ。それを思うと急に込み上げてくるものがあって、少女は二人に口づけを落とした。ぼんやりと焦点の合わないナハトの双眸が、心地良さそうに細くなった。それにつられて安心した弟は、彼女に口づけを返すのだった。
 シエルに嬲られていた兄は満更でもなさそうだった。左右で異なる色味の瞳がとろんと垂れて、快楽だけを貪ってねだる。その表情にあてられることなく、ただ気を抜かないように細心を払いながら、セスは二人の情交を黙って見ていた。


***



 一人になれる自室で、セスは身を蝕む熱を思い出す。むず、と今更になって疼く秘孔。二人が帰ってこないのを良いことに、料理をしながら玩具を咥えて楽しんでいたことをすっかり忘却していた。意識した途端、尻に感じる異物感に短い喘ぎを洩らす。ベッドに身を沈めて尻をそろりと上げる。
 兆しかけている肉茎からべとりと先走りを垂らしながら、ぐちゅ……と玩具を抜いたり挿入したりを繰り返す。兄のように彼女に犯されたい、自分も。でも、そんなことをしてくれとは言い出せない。邪魔をするのはいつだって理性と良心だ。あの時だって、と思い出しかけてそれを放棄するよう、快楽に対して貪欲になった。

「ぁ、あ……んぅ! あっ、ぁあっ」

 男女の見境が残っている自分と、見境の無い兄の何がそんなに違うのだろう。欲しいものは同じはずなのに。ぼんやりとした思考の片隅でそう思いながら、彼は秘孔を刺激する速度を上げる。楽に根元まで出入りするようにほぐれてきた。さらに刺激を求めようとしてチェストに手を伸ばす。――が、それは何者かによって止められてしまう。恐々としながらそちらへ視線を向けると、そこには「だーめ」と言いたそうな少女の瞳。
 しんと心の底が冷える。いつから彼女は見ていた。最初から? いや、そんなはずは無い。セスがパニックに陥っているのを楽しむように、シエルの手が尻に挿入されたままの玩具を弄びはじめた。

「ん、ぁあ……! ぁっ、あ……」

 出したり、挿入したり。たったそれだけの緩慢な動作なのに、自分でしている時とは違った快感が湧く。大きさの異なる玩具がもう一本追加され、咥え込んだ二本のアナルビーズを交互に動かして苛まれる。それはカチリと腸内で噛み合って、はしたなく秘孔が拡げられてしまうのだった。

「あの時の約束どおり、シエルちゃんと気持ちいいコトしましょ? ね、セス先生」
「ぁ、なんで……? ひぁっ」
「ちゃんとノックしたわよ。開けたらこんなコトしてたの、先生じゃない」
「ひんッ! 待って、太い……太いよ、これ。あっ……あ、待って抜かないでっ」

 噛み合った玩具の片方、一番細いディティールのビーズが抜かれる。にちゃっと抜けていく感覚と、ざわりと這い上がる快感。残された太いアナルビーズを咥えながら、セスは必死に表情を隠した。それを愛おしそうに見つめては、猫がネズミをいたぶるようにじりじりと責める。
 ふと、軽く前立腺を刺激したのだろう。しっかりと芯を持ちだした肉茎から、白濁混じりの牡汁が垂れる。しつこくそこを狙って突いてやったら、どろどろと精液が押し出てきた。肉茎を直接扱くことなく果てた。それが与えた衝撃はさぞかし大きいだろう。耳元に唇を寄せたシエルが「トコロテンしちゃったわね。初めてでしょ? 偉い、えらい」と囁けば、快感に浸っていた彼は一気に耳まで赤くなった。

「ナハト先生みたいにされたい? それとも、やっぱりイヤ?」
「……して。兄さんみたいに、僕の、ことも……」
「じゃあ、うんと優しくしてあげるね」

 驚くほどすんなりと言葉にできていた。訊ねてくる彼女の声が、どことなく不安げだったからだろうか? 分からないが、これで兄と同じようにしてもらえる。そう考えただけで、じんわりと胸の奥が満たされていく気がした。
 ぬちゃりと塗りたくられるローション。十二分に熟れてほぐれた秘孔が濡らされる。興奮まじりの声で「入れるわよ」とたった一言。何度か期待させるように先端が擦られて、男の身体から力が抜けると同時にゆっくりと押し入ってくる。
 張り型だって玩具のひとつだ。それにしては拡張感が先ほどまでの比ではない。押し広げられていく感覚に任せるよう、セスは喘ぎを洩らす。身体の奥深くで感じる異物感が亀頭であり、括約筋でしっかりと食い締めているのが棹である。理解した瞬間、言いようのない感情と充足感が押し寄せた。
 ゆっくりと細い腰が振られる。色白で柔らかな女の素肌がぶつかるたびに、短く声を発して感じるたび、なんて滑稽な姿なのだろうと思う。でも、これが良いのだ。ずっと、こうされてみたかった。枕に顔を埋めたセスは「気持ちいい」とか「もっと」と言葉にしていた気がする。ぐずぐずと泣き濡れていたのは快感からか、幸福感からか。その答えは青年だけが知っているのだった。


***



 学校への編入時期とテスト期間が不運にも重なってしまったシエルは、苦手な科目を重点的にこなすことにした。誰がなんと言おうと数学は天敵だ。あんなもの滅んでしまえとさえ思う。それとなくセスに探りを入れようと試みた彼女だったが、あの夜の一件以降、どことなく避けられている気がする。
 そんなことが続いて、寝不足だったのだろうか。顔色が優れないよ、と隣席の少女に言われて、シエルは鞄を持つと仮眠をとりに保健室に向かった。それから二時限ほどののち、授業に復帰した彼女だったが、その日は本当に体調が優れなかったのか半日で帰宅したのだった。
 授業中の皆には申し訳ないが、気晴らしを兼ねて少しばかり買い物に出ることにした。可愛らしく着替えながらも、持っている鞄の中には淡いピンク色をした立派な肉茎の玩具。それから無くなりかけのローションと、アナルパールなど諸々を仕込む。普通のピンクローターや、乳首用のものとか、それから……と考え、大事なものを忘れるところだったことに気づく。
 セスとナハトのために用意した特注の品を受け取りに行かなければ。とはいえ、いつ渡すのが最適なのだろうと考えてしまう。誕生日とか? そう思いついたものの、どちらも過ぎてしまっていることを思い出してしょんぼりとする。それならテスト明けにしようと考えを切り替え、物資の補給を終えたシエルは真っ直ぐ帰路についた。

「戻ったか。大丈夫なのか、体調は」
「セス先生は心配性さん。先生こそ欲求不満で死んじゃうんじゃないかしら」
「なッ……! そんな訳あるか!」

 かぁっと赤くなった青年の背中に抱きつく。そうやってころころと転がされるから楽しいということに気づいてないのだろうか。そんな様子を見つつ、手際よく夕飯の支度を進める彼を見上げる。すりっすりっと意味深に腰を擦り寄せてやると、覚えたての快感を思い出したのか「んっ」と小さく吐息が洩れ出た。

「ただいまー。って、なにイチャついてるんだよお前ら」
「あ、お帰りなさい! ナハト先生。あのね、セス先生が――」
「適当なことを言うんじゃない! まったく」

 慌てて釘を刺す堅物を笑いながら言葉で遊ぶと、やっぱりその顔色はころころと変わった。そんな様子をナハトはどこか不満げな様子で見やる。そうして三日が経ち、無事にテスト期間を抜けたシエルたち生徒と教員たち。安堵の息を吐きながらそれぞれ帰宅し、ゆっくりと湯船に浸かった。――その、週末の朝。
 珍しく早起きだったのだろうか、ナハトが欠伸を噛みながらソファーに座りながらテレビを観ている。その横顔はどことなく不服げで、何か物言いたそうにも感じられる。シエルは布団から顔を出すともぞもぞと這い出て、彼の隣りに腰をおろす。手を伸ばしてじゃれついてみても、一向に返事は返ってこない。

「シエルちゃん。俺さ」
「何? ナハト……んっ、くすぐったい」

 さわさわと大きな手が撫でてくる。シエルの髪を、頬を、唇を優しく触れる。髪から飛び出た耳を、すべらかな首筋を、まるで壊れものでも扱うかのような優しさで触れる。それが本気であって、本気でないのは普段の言動からも明らかである。
 彼が見ているのは記憶の中の女性だ。いわゆる『忘れられない女性』というヤツだろう。それを被せていると知ってもなお、シエルのなかでのナハトの評価は変わらなかった。明るくて、よく気がまわって、弟が大切で、それと同じように少女という個人を見てくれる。それが愛だの恋だのと言うのは野暮で、彼女のなかでは想われているだけで充分なのだ。

「なあ、ダメか?」
「先生に見られちゃうでしょ」
「ソッチの方が逆にソソるっつーかさ」

 唇が柔らかく何度も食んでくる。はぁとも、はーともつかない吐息を洩らす。ナハトにマウントを取らせ、ソファーの上でじゃれあう。ぴちゃぴちゃと濡れた音をたてて舌と唾液を絡ませる。こくっと喉を鳴らして混ざり合った体液を飲み下した瞬間、不思議と体温が上がった気がした。
 耳元で掠れた声が笑う。意外だと言いたそうに「女の子してるシエルちゃんも悪くねえな」と呟いては、するりと手際よく下着を脱がしてく。しかし、その下が万全な状態であると気づいた彼はより一層に興奮したようで、愛おしそうに肉茎を模した玩具に口づけた。

「ナハト先生って本当に床上手よね。続けて? セス先生まだだろうし……はぁん」

 じゅぽ、と激しく口腔に呑まれてく。喉奥に当たっているだろう感触に、シエルは男顔負けに「もっと奥まで欲しいの?」と訊ねては悪戯っぽく笑う。
 男が女さながらに尻を突き出して悦がる姿に、異様な興奮を覚えたのはいつからだったか。女であるということが堪らなく嫌で、男の子の真似だってした。変声、腕力、体格差。それはどれも変えられず、それなら今のままで出来ることを試みようと決めたのだった。
 ひく、と紅く綻んだ秘孔が嬉しそうに自分から咥え込んでく。正確には、上から体重をかけて奥まで押し込魔れていくのだが、こうも用意が良いと一言くらいなじってやるべきか。

「こうすると奥まで届くでしょ。私に何か隠してるわよねえ、この淫乱ッ」

 理由がなんであれ、求められても嬉しくないのは事実である。蔑みの色さえ浮かべながらシエルは腰を掴んで角度を固定し、容赦なく突き込む。射精を管理する必要がないのだ。ナハトの素養もあって、断続的に突いたり、掻きまわしたりと快楽を与え続ける。

「だって、シエルちゃ、俺のトコ来てくれねーんだもん! あいつばっかりずりーよぉ」

 びゅくりと勢いよく精を吐いて萎える肉茎。そこを締め上げるように、銀製のコックリングで止めてしまう。これならまだ、シエルに苛まれることを背徳的に感じ、その快楽を享受することでしかやり過ごせない堅物の方が愛おしささえ感じる。
 肉茎だけでなく、睾丸まで戒められていることに気づいたのか、ナハトは表情を蕩けさせて腰を振り乱しはじめた。ぶるっと震えて何度目かの絶頂を迎えた男の耳元に、思い出したようにわざと吹き込むのだ。

「ナハト先生にあげるから大切にしてね。――んふ、セス先生にもあるわよ、ちゃあんと」
「え……あ、うぅ……」

 ちらりと視線を投げた先には、情事を覗き見ていたセスが居た。覗くつもりも、最後まで見るつもりも無かっただろう。彼としては、起きてただリビングに来ただけだ。そしたら兄とシエルが致していた訳で。――とんだ二次災害だ。
 ぱんぱんに張りつめた股間に彼女の手が伸びて、するりと形を浮き彫りにするように静かに撫でまわす。そのまま吐き出すまで執拗に扱きたて、それでいてシリコン製のコックリングでせき止めてしまうのだった。その流れでシエルは、セスの寝間着を乱しはじめる。
 ぷっくりと熟れた乳首に吸いつき、かりかりと甘噛みする。歯が当たるたびに「あっ」やら「ふ、う」と浅い喘ぎが洩れた。再び兆しはじめた肉茎の姿に、シエルはゆったりとソファーに座り、この自堕落な宴席に君臨したのだ。彼女の股間に鎮座している作り物の肉茎にしゃぶりつく二人。次にどちらが味わうかなどと言い争っている。そんな男たちが可愛く、愛おしいのだ。

「くだらないことで喧嘩しないの。そんなに玩具だけが良いの?」
「やだぁ……! 俺、しえるちゃんが欲しいよぉ」
「……ぅあ、僕も欲しいから。だから、んひ……っ」

 男としてはしたない。たとえ誰もがそう感じても、シエルという女が求めるのはそんな男だ。矜持も意地もぐずぐずに溶けた、それでいて真っ直ぐに自分だけを見つめる瞳。
 少女が勝ち誇ったようにニンマリと笑うと、男二人の頭を交互に撫でて「今日は三人でイイコトして過ごしましょ」と、楽しそうにチャンネルを変えた。気づけばナハトが観ている番組が終わり、次にシエルの、最後にセスの観たい番組があった。だが、その予定は呆気ないほど簡単に返上されたのだった。