cage 13




 いったいどれくらい夢中になっていたのか。ぼうっとする頭の片隅で考えても分からない。繰り返した深いキスと軽い愛撫で彼女は完全に火がまわったみたいで、誠人も治まりがつかないのが現状だ。
 下着の片側だけ脱いで、膝を立てている玲子。浴衣の裾を持ちあげて、柔らかな太ももを、その狭間にある秘められた部分を恥じらうことなく見せてくれる。蜜がしたたって、べたべたと垂れ落ちてく。誠人の指が触れるたび、とろりと濃厚な蜜が垂れてきて――その様子から玲子の身体が熟れたことを物語っていた。

「ぁ……んっ……んん、ふ……」
「苦しかったら、ちゃんと言ってね」
「……う、ん」

 結わえていた彼女の髪をほどいて、さらさらと白いシーツに広げる。下肢を愛撫しながら浴衣の帯を解いて、露わになった形の良い双乳に吸いつく。その瞬間、玲子の身体はきゅうっと強く締めつけてきた。
 充分に濡れて慣れてきた身体。このまま彼女に主導権を持たせておきたかったが、さすがに破瓜する瞬間くらいは安定した体位のほうが良いだろうかと、極限的状況下であっても冷静に判断する。小さな身体をゆっくりと組み伏せ、誠人は静かに覆いかぶさった。

「……んんっ……、ふ…………」
「すごい、や。玲子ちゃん、俺の背中に手ぇまわして。ちょっとは楽になる、から」

 慎重に先端を食ませてく。挿入された感覚に馴染んだところで、そろりと腰を進めて根元まで収めようとする。誠人は汗で身体に張りつくシャツを脱ぎ捨てた。彼女の手を取り、自身の背中へとまわさせる。
 破瓜の、貫く感覚は確かにあった。別に生娘が良いなどとこだわっている訳では無いが、玲子に関して言うならばそういう関係には慎重になるのが道理で。誰でも良かった訳でもなく、自分であって欲しかったのかと思うと形容しがたい感情がわいた。

「……玲子ちゃん、泣かないで……?」
「だって……こんなに幸せ、なんだもん……」
「ん――そっか。幸せ、なんだ」

 涙を浮かべた目尻に唇を寄せる。身体に受け入れることで、それこそ『好き』とか『愛してる』とか――姉弟である以上は赦されない言葉たち以上の感情を示してくれたとしたら。これほど幸福な事などあるだろうか?
 虚構だらけの中にうまれた、たったひとつの本音。誠人もそれを口にすることなく、掠れた声で何度も何度も名前を呼んだ。次第に抑えきれなくなって低く呻いた瞬間、玲子の爪が背中に食いこんでいくのを感じた。

「……ぁ……っ! ん、ん……ふか、いよ」
「こうすると、さ。奥までとどく、ね」

 身体への負荷を考えて密着しながら、でもしっかりと支えられる対面座位になる。ぐちゅっと大きく濡れた音をたてながら、深く、溶け合う。下から固定された腰を逃がすこともできず、玲子は身体の奥深くで誠人を感じることになる。
 戯れに口づけながら腰を擦り当てていると感じすぎて苦しいのだろうか、玲子が静かに泣きだした。誠人は大きな手で優しく頭を撫でて「良すぎて苦しい?」と訊くと「うん」と返ってくる。舌足らずな声音に呼ばれて「お腹の奥、腰も……おかしくなりそう」と蠱惑的に鼓膜を揺すられた。

「今日はこれくらいにしておこーね」
「う……ん。……あの、ね。誠人」
「なに? 玲子ちゃん」
「今、すごくしあわせ……ふふ」

 俺もかな。誠人はぼそりと小さく洩らす。幸せなどと満たされた感情は、今になっても理解できない。でも、こうして触れ合って、ふわふわとした疲労感や暖かい感情でいっぱいになるのは意外と悪くないものだ。
 タバコを吸う気にもならず、彼女の髪を撫でて身体の具合いを窺う。シーツには微かな出血の痕跡があり、初めての行為であったことを証明していた。所有痕のひとつくらいとも思ったが、重荷になる気がして躊躇われる。

「誠人」
「どしたの。お水とか欲しい?」
「ううん。あのね」

 また会えてよかった。嬉しそうに笑った彼女は、体力を使いきったのか瞼を閉じる。そのまま寝入ったのを確認すると、誠人はメガネをかけて脱ぎ捨てたシャツを引っかけた。
 今夜の夕飯どうしようか。などと、ぼんやり考えだす。多幸感からなのか分からないが、上手く思考が働かない。こんな時になにかあったら、と危機感を煽り立てるも、湿気ったようになかなか火が点かない。
 深く息を吐いてソファーに身体を預ける。突き入れられた瞬間の衝撃は、男の自分には計り知れない。でも、あの時の感覚は――支配下に置いた手応えは確かに残っていて。取り留めないことを考えて、時間を貪る。もう少しだけ、玲子の感触と体液に塗れていたかった。