Accept 04




 それから何度か訪れた週末。何かと慌しく過ごしていたが、ノエルは決まって週末に泊まりにきていた。日用品や歯ブラシなど足りない物を持ち込んでいるあたり、計画的と言えるだろう。
 ジンは手元の文字を追いながら、ぐつぐつと煮えてきた鍋の様子を見る。古いノートに書かれたレシピの数々は、男一人の生活を賄うには充分な情報量だった。生活の知恵で溢れているというのだろうか、良く分からないけれど。

「わぁ……良い匂い」
「もうすぐ煮えるから少し待て」

 風呂から戻ったノエルを座らせると、程なくして白身魚の煮付けは完成した。簡単な食卓を二人で囲むと、ゆっくりとした時間を過ごす。
 彼女に促されるまま、柔らかい太ももを枕にする。ふにっと沈み込む柔らかさは癖になりそうだ。すりすりと頬を寄せていると、静かに手が伸びてきて。頬を染めてもじついている。何が言いたいのか、おおよその察しはつく。

「ん……せんぱい」

 そっと静かに組み伏せると食むように軽く口付ける。何度も何度も啄ばんでその感触をしつこく味わった。は、は……っと荒い呼吸が聞こえると舌先を伸ばして絡める。
 逃げられないようぐっと頭を押さえ込み、嫌でも深く重ねあう。彼女の口端を伝う唾液を舐めると、ノエルの手を取り主張している肉茎に触れさせる。最初は触れるだけだった手が、ジーンズごしにさすってくる。それでも足りないのだろうか、ジジッ……と音をたててフロントが寛げられた。

「んっ、んんぅ……っ」

 ぴちゃり、と濡れた舌先が絡みつく。硬く勃ちあがり反り返って腹までつきそうなそれを、狭い口内で愛撫される。鼻から抜ける、それでいてぎこちない喘ぎが鼓膜を刺激する。悪戯にもぐらせた指先は、とろりと蜜で濡れ、探るように狭い膣口を弄ぶ。女のよりは太くしっかりした関節を中間くらいまで挿入して、ゆっくりと抜き差しを繰り返す。
 相手をいたぶるような趣味は無いが、平静を保ちたい思考とは裏腹に身体が反応する。絶倫などと呼称するほど動物じみていないはずだが、こうも簡単に煽られるのは癪だ。軽く指先に当たる子宮口をコリコリと刺激してやれば、咀嚼するように肉がざわついてくる。もう奥で感じているのか、なんて揶揄する余裕も無くなった。

「ふ、あ……きもち、よすぎて……あっ! あん……んっ」

 ぐちゅぐちゅと掻きまわすように探り出した途端に、彼女は絶頂を迎えていた。そんなノエルの表情をまじまじと見つめながら、濡れた指を引き抜く。弛緩しながらも閉じている脚を割り開き、蜜で汚れた太股を丹念に舐めていた。
 先走りで濡れた先端を彼女の呼吸に合わせて、ゆっくりと飲み込ませていく。じわじわと裂ける感覚に歯を食いしばりながら根元まで納めてしまう。
 奥を突き上げていると、立たせたノエルの細い腰がかくんっと落ちた。抑えても肝心の理性以上に暴れようとするのだから仕方が無いじゃないか。ぎこちなくジンを求めるように腰が振られ、その度にぱたっぱたっと床に蜜が垂れ落ちる。
 それからベッドでも貪るように求めた。冷静に思い返すと酒でも入っていたんじゃないかとも思うが、こうして思い出してみても口元が緩む。自分だけが知っている表情だと思うと、何だか胸の奥が熱くなった。
 シャワーの準備をしようと考えていたら、ピピッと着信音が鳴る。それを確認するのも煩わしくて気だるさのままに湯を浴びようと、うとうとしていたノエルの肩を軽く揺すった。

「なるべく早く帰れるようにする。大人しく部屋で待ってろ」

 身体の水気を拭き取りつつ、わしゃわしゃと髪をタオルドライする。それを彼女に乾かしてもらいながら、着ているシャツのカフスボタンを留める。今日ならネクタイは要らないだろうとか、ジャケットはどうしようかなどと考えれば時間はどんどん過ぎていく。
 そうこうしているうちにあっという間に出勤時間だ。出勤と言っても階段を降りて、地下にある店に行くだけなのだけれど。こんなにも弾んだ心持ちなのは初めての事だった。

「……どうだ? 飲めそうか」
「うーん……及第点、ですね。個人的には好きなのですが」

 これだと水っぽいんです、と言った青年に成程と頷いてメモを取る。恐らく彼が言いたいのは客が口にするまでに水っぽくなるとか、そんなニュアンスだろうか。
黙々と講義を受けながら、何気なくカクテルに口をつけた。グラスのふちを飾る塩が口内で溶けて、ほどよく利いてくる。スノースタイルのそれが、ジンはいたく気に入っていた。

「精進しましょうね? 僕も頑張りませんと、ジンさんに追い越されてしまいます」

 そう言いながら、鍋の様子を見る。味見を済ませるとコンロの火を止めた。
 彼を見ていて驚いたのはその観察眼だった。憂いを帯びている眼差しは伏せられているようで、いつも誰かを気にかけているのだ。

「そう言えば今度の週末なのですが」
「大丈夫だ。言ってある」

 次の週末には、初めての留守番を頼まれている。何でも知人の生誕を祝う立食パーティがあると言うのだ。何度か顔を合わせた、この店の歌姫だろうか。詳しくは分からないが、その付き合いは広すぎてジンには到底把握できそうに無い。

「ノエルさん、でしたっけ。可愛らしかったですよねぇ……まだ生娘っぽくて」

 女みたいな顔立ちをしてさらりと何を言っているんだ。勿論これは言葉のあやであり、本気でないのは理解している。だが――。

「面白くないって顔されてますね……ふふ。この商売長いと、ああ言う可愛らしさが貴重なんですよ」
「無駄に正論だな」

 それには危うくジンも同意しそうになって、慌てて口を噤んだ。しかし、どうやら顔に出ていたらしい。それを突いてくるのは明らかだ。ならば、こちらから出てしまえばいい。
 目に見えて驚いた顔をした彼は、口元に手をあてて微笑んだ。似たような言葉尻をした男を知っているが、相手に与える印象がこうも違うのは何故だろう。そんな事を思いながら、今日も一日が始まった。