第三章 調教師の甘言




 社交界で噂になっていたシエルは、今年で十八くらいになったのだろうか。それでいて卓越した性技の持ち主で、是非ともその調教を受けたいという酔狂な男も居たくらいだ。再会した時こそ微塵も感じさせなかったが、冷静に考えれば名も知らぬ子供を買い取ってまで助けるところも、相変わらずと言うべきだろう。
 高級宅地を北東寄りに歩いて行く。やがてセスが行きついたのは、煉瓦造りで漆喰が走るいかにもな風貌な洋館だった。テラスには純白のチェアとテーブル、それから薔薇でできた小さな生垣。どこか故郷の、ローデの屋敷を思い起こさせる。

「こちらへどうぞ。クロイツ様」
「……ああ。感謝する」

 明かり取りから差し込む陽射しはどこも暖かく、開け放たれた大きな窓からはまだ緑の萌える匂いがする。このルブルムは都市部にしては自然が多い。木々の合間から覗く陽光を、緑の葉がキラキラと反射していて綺麗だ。メイドに先導されてセスが案内をされたのは執務室だった。
 そこには屋敷の主人であるシエルがおり、榛色のロングヘアーが風を受けてさらりと揺れた。表情を覆うヴェールなどは無く、それでいて露わになるはずの首筋を襟布で楚々と隠している。それでありながら首元やコルセットの前面が革バンドで固定されているせいか、さながら拘束具でも着込んでいるかのような印象を受ける。実に変わった意匠のドレス姿であった。

「……シエル=ヴァンベルグで相違無いな? 定期監査だ」
「近衛の将校様が私にいったい何用なのかしら。あの子の様子を見に来たわけでも、黄薔薇への書状が欲しいわけでも無いでしょう? もしかして、欲求不満なのかしら」

 細い肩口までもぴっちりと覆う革手袋に包まれた指先が優しく髪を梳る。その緩慢な動作とは裏腹に、双眸は爛々と危うい光を放っている。言いながら振り向いたシエルは深紅の瞳をスゥッと細め、まるでセスに値踏みをするかのような視線を投げてきた。冷めきった赤が真っすぐに男を見上げ、ぴたりとその心中を当ててみせる。
 たかが貴族の小娘、所詮は道楽。心のどこかでそう侮っていたのかもしれない。調教師の少女が持つ可愛らしさと淫奔さの混ざり合った空気が、普段は理性でひた隠しにしている獣欲をあちらこちらとつついてくるのだ。もっともらしく話題に挙がったのは、レムギアでも屈指の娼館だった。貴隷揚がりの夫婦が切り盛りしているその館には、国中の薔薇小路を探しても見つからないような娘たちが身を寄せていると聞いたことがあるが……。

「黄薔薇の書状よりは、まだ貴様で良い」
「ふぅん? 所有している貴隷や、路肩の私娼のほうがまだ優しいかもしれないわよ」

 そうシエルは言うが今まで鼻の鋭い私娼に引っかかることなくやってきたのだし、そこまで目に見えて飢えているということは無いはずだ。だからと言って一時の欲求のためだけに貴隷を飼うというのも、果たして満足できるものなのだろうかと思ってしまう。
 まるで心の内を察したかのように、少女はクスッと意地悪く笑んだ。そうしてソファーに座った男にじゃれつこうと歩み寄る。ふわりとスカートが翻えるたび、その恥丘の稜線が浮かんでは消えた。静かにセスの隣りに落ち着くと、筋肉の乗った太腿をさわさわと触り反応を盗み見てくる。

「なら、もっと気を楽になさって。これから熱いベーゼを交わすのだから楽しみでしょう?」
「……ッ! やめ……気を楽にできる訳がないだろう? 貴様は馬鹿か」
「少し触っただけでこんなに硬くしているのだもの、んふふ。いかに剣帝と呼ばれる男であっても、女には無能なのね? 安心したわ」

 愛玩動物でも可愛がるかのように頬を撫でてきて、見るからに柔らかそうな唇が迫ってくる。セスが軽く顔を背けると、その狙いは首筋へと流れていった。濡れた舌が喉元を這い、コクリと鳴った喉仏をしつこく食む。馬乗りになるようシエルに跨られて、その動きを止めようとしたセスの両腕は所在をなくす。明らかな侮蔑と嘲笑だったが、そんな仕草でさえも『らしい』と感じさせる。だからと言って女に罵倒されて悦ぶ趣味など、自覚している限りでは無いはずだが……。
 彼女はすでに痛いくらいに硬く張った股間を撫であげ「せっかくだもの、将校様の剣さばきが見てみたいわ」などと耳元に吹き込んでくる。あまりに突飛でありながら意味深な言葉に、現状を顧みればワンテンポ遅れながらそういうことかと理解する。

「私のそれなど……」
「決めるのは私であって、貴方に拒否権など無いわ。それともなぁに、恥ずかしいのかしら」

 この場の支配者は、絞めれば折れそうなほどか細い喉奥でくつくつと笑う。シエルの指先が触れるだけにとどまらず、それでいて青年には有無をも言わせないとばかりにズボンのフロントを広げた。自慰の経験がまったくないと言ったら大嘘だ。しかし、それを他者に見せるものなのだろうかと冷静に思考してしまう。そうありながらも一段と質量を増して首を擡げる姿に、うっとりと感嘆の息を洩らす少女。
 セスが無言をとおす間にも服を乱す手は止まらず、ガッチリと鍛えて肉厚な筋肉で覆った胸元を遊ばれる。勃ってもいない乳首を舌先で丹念に舐め転がし、時折つんっと突いたり吸ったりと気まぐれに動く。むずむずと這い上がってくる感覚をやり過ごしていると、気づいた頃にはベルトで固定された腰元までもはだけさせられていた。その手ぎわの鮮やかさには舌を巻かざるをえない。

「ほら、きちんとできたらご褒美をあげるわ」
「…………良いだろう」

 体重をかけてのしかかってくる彼女を受け止めながら、諦めの思いでひと呼吸おいた。それから見事に上向いている肉茎へと手を伸ばして握り込む。浅い息遣いを繰り返しながら、セスは見せつけるようにゆっくりと扱きたてる。ぬちゃぬちゃと鈴口から先走りが垂れ落ちるが、正直それだけでは足りない。物足りないのだ。
 それを察したのか胸元から顔をあげたシエルの唇から、とろりと濃い唾液が垂らされる。まぶされた唾液を潤滑油がわりに絡めれば、否応なしに扱きあげる速度は増していく。ぽたり、ぽたりと混ざり合ったモノが絨毯を汚す。

「出さなくて良いわ。もう充分よ」
「なん、だと……? 何故だ……ッ」

 上り詰めようとした寸前で止められてしまい、思わず青年将校は喉を震わせた。あともう少しで、なのに充分だと? 冗談じゃない!
 調教師による気まぐれな思いつき。それが男にとって不服なのが目に見えていたのだろう、彼女の口端はニンマリと持ちあがっていった。そしてその唇が紡いだのは、意外にも甘言だった。

「もしかして気に入らないの? なら、お好きになさって構わないわ。こうして『きちんとできた』ことには変わりないもの」

 それらしい言葉を吐きながら、手を伸ばせば届く距離で脱ぎ落されるスカート、ゆっくりとずり落とすように脱がれる漆黒のレースショーツ。次いで美しいヒップラインが姿を現したと思ったら、それは無遠慮に突き出されて、すりすりと誘うように動いた。なだらかな尻溝を濡れた恥丘に見立てて欲のままに擦りつける。だんだんと窄まりが緩んできて、セスが自身の切っ先を軽く押し込んだ途端、難なく呑み込んでいった。
 ゆっくりと出し入れを繰り返して根本まで咥えさせ、腸粘膜を広げてはぬちゃりと奥を掻きまわす。彼女の生意気な口を封じるにはそれしかない。などと、もっともらしい理由を見つける青年。子宮の裏側を深く耕すたび、シエルは声を上げまいとしてカチカチと奥歯を鳴らしている。丹念に何度も行き来を繰り返していれば、やがてその細腰がびくりと大きく波打つ。搾り取るように絡みつく肉壁に、びゅくりびゅくりと熱い飛沫を余すことなく注ぎ込んでく。

「は、んんぅ……! んふ、たっぷり注いでくださって嬉しい」

 とろりと目尻を垂らした彼女は、どことなく満足そうだった。しなやかな体躯を抱きしめると、セスは表情を隠して呟く。絞り出した言葉は「もう一度」と続きを求めるものだった。執務机に手をつかせて支えると、奥の奥まで穿つ。そのたびに小さく机が揺れて、互いの腰が揺れ続けるのをシルエット越しに見ていた。
 シエル=ヴァンベルグ。その名をした少女に、たった一人だけ心当たりがある。けれども男が知る限りでは、こんなふうに淫らで嗜虐的な仕打ちを好むとは思えなかった。あの頃は恥じらってばかりで、それでいてお転婆だったと言うのに。
 お兄さま。そう呼んで、まだ少年だった自分を慕ってくる。そのあどけない表情が綺麗な想い出すぎるのかもしれない。明るく微笑する様子は、小さく花が咲いたみたいだと思った。誰にでも等しくあろうとする姿がいじらしく、未熟だった独占欲を掻き立てたものだ。でも、彼女が望んで父の傍に居るのなら邪魔はできない。――そう、思っていた。

「また気をやりそうなのか? 良いぞ、ほら」

 ずるりと萎えた肉茎を引き抜くと、尻を大きく割り開いて紅く綻んだ秘孔を覗き込む。ひくりひくりと呼吸に合わせて震えるさまに、指先を押し当てて埋める。掻き出すように動かせば、奥から濃い精液が溢れてきて、軽微な動きでさえも彼女は容易く絶頂してく。生唾を飲みながらセスがその表情を覗き見れば、シエルの瞳は自分だけを映している。言い知れぬ感情で満たされていくのを感じると、口角が無意識に持ちあがっていくのだった。